openSUSE.Asia Summit 2024 Tokyo開催レポート

2024年の11月2日から3日にかけて、東京の麻布台ヒルズでopenSUSE.Asia Summit 2024が開催されました。このイベントはアジア圏を中心に世界中のopenSUSEユーザーが集まって、交流するイベントです。今回はこのイベントの様子をレポートします。

openSUSE.Asia Summitとは

openSUSEとはLinuxディストリビューションの1つで、世界中から集まったコミュニティで開発しています。openSUSEではアジア地域のopenSUSEに関わる人たちが顔を合わせて交流する場としてopenSUSE.Asia Summitを毎年開催してきました。そして今回は2017年以来7年ぶりの日本での開催です。

イベントは2024年11月2日、3日の2日間の日程で開催されました。openSUSEユーザーと貢献者、そしてFLOSS熱狂者の計149名が、東京タワーの展望台を見下ろす麻布台ヒルズに位置する株式会社SHIFTに集い、様々なトークや交流が行われました。

麻布台ヒルズにあるこのビルの32階でイベントが開催された

openSUSE.Asia Summitにおけるトーク枠は世界中から公募しており、発表する言語は英語または現地語というルールになっています。今回は日本の東京での開催のため、日本語の発表もありました。イベントで発表する人は国内外のIT業界のオープンソース分野のエキスパートから若手の学生までと幅広く、コンテナ技術、デスクトップ環境、IoT、多言語対応や翻訳、組織運営やシステム運用のノウハウの経験談など43件(うちショート21件)のトークが繰り広げられました。

受付ではGeekoぬいぐるみタワーがお出迎え

今回は日本開催における特色のひとつとして、Cross Distro Developers Camp(XDDC)とも協力したトーク枠を設けました。XDDCとは、日本におけるLinuxディストリビューション間の互助会です。トークをopenSUSE TrackCross-Distro Trackに分けることで、openSUSEに限らずさまざまなLinuxディストリビューションの情報も得られるイベントとなりました。

基調講演

初日の午前中はメイントラックにて、基調講演が行われました。

「OSS Study Sessions and AI Document Reverse Engineering」

会場説明などを含むオープニングセッションのあとに行われた基調講演の最初は、会場スポンサーでもあるSHIFTの秋葉さんとあやなるさんによるOSS Study Sessions and AI Document Reverse Engineeringです発表資料⁠。

秋葉さんが日本語で発表し、あやなるさんがすぐにそれを英語に翻訳するかたちで進行

SHIFTでは有志でOSSの勉強会の一環として毎週「GitHub Trendsを眺める会」を開催しているそうです。それを続けていくと、技術系のニュースに応じてすぐに関連したOSSのリポジトリができることに気づいたり、逆にトレンドの登場から知らなかった技術ニュースに到達できることもあるようです。

また生成AIを用いて既存のコードからドキュメントを生成するサービスなどをSHIFTで提供している旨も紹介していました。

ちなみに本イベントのスタッフでもあるSHIFTの石井さんが、日本語と英語の両方でイベントレポートを書いています。

「What is openSUSE?」

次はopenSUSE BoardのSimon Leeさんによる、What is openSUSE?でした。

openSUSE関連のイベントについて解説するSimonさん

openSUSEのBoardメンバーの選挙が行われるため、openSUSE Asiaのコミュニティメンバーも参加してほしい旨のアナウンスから始まり、openSUSEとはなんぞやという新規参加者向けの基本的な説明が行われました。

さらにLeapとMicro、Tumblewheed/Slowroll、MicroOS、AeonなどopenSUSEが提供するさまざまな種別の紹介、用途ごとの選択方法、openSUSEの開発を支える各種サービス・ツール、商用サービスを提供するSUSEとの関係性や役割分担などをわかりやすく紹介していました。

「An update from the Geeko Foundation」

基調講演の3番目はGeeko FoundationのDouglas DeMaioさんとPatrick FitzgeraldさんによるAn update from the Geeko Foundationでした発表資料⁠。

2人で交互に発言しながら紹介するスタイル

Geeko Foundationは2023年に設立された、世界中のオープンソースプロジェクトをスポンサーや寄付などによって主に金銭的に支える組織だそうです。openSUSEコミュニティで開催するイベントはもとより、FOSDEMやGoogle Summer of Code Mentors Summitなどもサポートしているとのこと。

今回のイベントであるopenSUSE.Asia Summitもサポート対象であり、たとえば発表者向けの旅費補助という形で多くの金銭的サポートを行っています。基調講演の中では、旅費補助の実際の内訳なども紹介していました。

Geeko Foundationでは将来的に寄付システムを使った様々なサービスなども構築する計画があるようです。

「openSUSE Leap Micro as KVM and Container platform」

基調講演の最後はSUSEの中尾さんによるopenSUSE Leap Micro as KVM and Container Hostです発表資料⁠。

日本語の発表だったので左右のディスプレイにリアルタイム翻訳を提示

「openSUSE Leap Micro」とは軽量で、モジュールアーキテクチャーとして設計された、コンテナ・クラウド等の利用に適したimmutableなLinuxディストリビューションです。話の中では、最近のVMwareの状況を話の枕に、オープンソースで利用される仮想マシン管理システムを紹介しつつ、openSUSE Leap Microの利便性について紹介していきました。

特にopenSUSE Leap Microはフットプリントが小さく、immutable(読み取り専用のルートファイルシステム)であるが故に、従来のLinuxディストリビューションの仕組みに対して、堅牢でセキュアで効率的な環境を構築しやすくなるとのこと。中尾さん自身も家庭でopenSUSE Leap Microを使って、K3sやKubeVirtなども組み合わせつつ、ホームラボ環境をかんたんに構築・運用できているという話もしていました。

openSUSE Track

ここからはopenSUSE Trackとして発表されたもののうち、いくつかをピックアップして紹介します。

「What’s new in Leap 16.0?」

Douglas Demaioさんは、商用のSUSE Linux Enterprise(SLE)をベースとするディストリビューションであるopenSUSE Leapの、次のバージョンとなる16.0についての最新情報について紹介しました。なお、リリースマネージャーのLubosさんが今回は来日できなかったため、Douglasさんが代わりに発表することになったとのことです発表資料⁠。

約7年ぶりのメジャーアップデートとなるopenSUSE Leap 16では、openSUSE Factory(Tumbleweed)からフォークした新しいパッケージコードベース(SUSE Linux Framework One)に刷新されています。カーネルやデスクトップ環境のバージョンは現時点でもまだ流動的な状態です。2025年の5月にベータ版をリリースし、11月にリリースされる予定です。

SLEでは大きな変更が行われますが、openSUSE Leapとしては従来方法によるパッケージ管理、SLEと同一のカーネルやパッケージを採用しつつ、デスクトップも提供という基本価値は変わらないことを強調していました。

「Getting Your Customized openSUSE Kernel on OBS」

Shung-Hsi Yuさんは、openSUSEのカーネルのカスタマイズ方法およびそれをOBSでビルドする手順について詳しく説明しました。Yuさんは台湾在住で、普段はSUSEのカーネルエンジニアとして、openSUSE/SUSE Enterprise LinuxのBPFサブシステムを担当しているとのことです発表資料⁠。

発表ではカーネルをカスタマイズする理由やOBSについての基本的な話から始めて、カスタマイズ方法のパターンの紹介に入ります。ちなみにOBS(Open Build Service)とは、openSUSEで使われているパッケージビルドのサービスで、WebUIとCLIツールが用意されています。

典型的な手順としては次の3パターンが存在します。

  • {patches,config}.addonを作る方法
  • kernel-$FLAVOR.specを編集する方法
  • kernel-source.gitをforkする方法

最初の{patches,config}.addonでカスタマイズする方法は、標準的で推奨されている方法でOBS上でカーネルに対するパッチやコンフィグを管理します。2番目のspecファイルを使う方法はより軽量な手順で、openSUSEで使われているRPMパッケージ向けの設定ファイルをカスタマイズすることになります。最後の方法はopenSUSE/SUSEのカーネルチームが用いている、gitリポジトリ上で変更するもっともカスタマイズ性の高い方法です。

発表の中ではそれぞれのパターンについて手順の概要と、それぞれの手順の良い点・悪い点を説明していました。まずは{patches,config}.addonを作る方法から始めると良さそうです。

「A Introduction to Cockpit」

Luna D Dragonさんは、openSUSEでも使われるようになったWebベースのシステム管理コンソールCockpitを紹介しました。

Cockpitについて語るLunaさん

発表ではCockpitの使い方の説明というよりも、Cockpitの技術的な側面や、Cockpit上で動くアプリケーションを開発する方法についての話が中心となりました。CockpitではフロントエンドをReactで開発できます。Web側で指定したコマンドを、サーバー側に送り実行し、その結果を受けるAPIがあり、これを使用して管理ツールを実装できるそうです。

「Your own openSUSE MicroOS derivative with the Open Build Service (OBS) and mkosi」

Jan Fookenさんは、openSUSE MicroOSをカスタマイズしたディスクイメージをmkosiを使用して作る方法を紹介しました発表資料⁠。

OBSの画面を示しながら手順を解説するJan Fookenさん

mkosiはsystemdプロジェクトで開発されている各種ディスクイメージを作成するツールです。rawディスクイメージだけではなく、コンテナイメージや、MicroOSのような不変・書き換え不可(immutable)のOSに、ファイルシステムを拡張して機能を追加するシステム拡張(system extentions)をサポートしています。また、openSUSE MicroOS以外のディストリビューションにも対応しています。openSUSEでは、ディスクイメージを使用する際に独自のKiwiというツールを使用していますが、mkosiのほうが導入が簡単だそうです。

ディスクイメージの作成はとても簡単で、ベースとするディストリビューションの種類、インストールするパッケージのリストを設定ファイルに書き、mkosiを実行するだけです。最初のデモではsystemd-nspawnでコンテナのように実行し、次のデモでは、ブート可能オプションを設定で有効にしてカーネルなどを追加インストールするだけで、起動可能なディスクイメージを作成できることを示しました。

さらに、インストールするパッケージを設定内に列挙するのではなく、独自のパッケージパターン(Red Hatの用語ではグループ)を作成し、パターンに従ってパッケージをインストールする方法も、実際の画面を示しながら解説していました。パターンはOpen Build Service(OBS)を使用すると、作成・ビルド・リポジトリ上で公開が簡単にできます。OBS上のリポジトリをイメージ内で使用するパッケージマネージャのリポジトリに追加登録することで、mkosiのビルドで独自のパターンを使用できるようになります。

Cross-Distro Track

前述のとおり、本イベントはopenSUSEがメインではあるものの、せっかくの国際カンファレンスということで「Cross-Distro Track」と題したopenSUSE以外のLinuxディストリビューションにも興味をもってもらう枠を設けました。

ここではそこからいくつかをピックアップして紹介します。

「20th anniversary of Ubuntu and 20 years of Desktop Linux」

2024年はUbuntuが誕生してから20周年となる年でした。Ubuntu Japanese Teamの柴田さんが、その20年間のUbuntuの進化とデスクトップLinuxの変遷について紹介しました発表資料⁠。

メジャーなLinuxディストリビューションの中では新参だったUbuntuももう20歳に

「Developing an application for GNOME in Rust」

ReactのようなモダンなWebアプリケーション開発に慣れ親しんでいると、GTKを使用したデスクトップアプリケーションの開発は命令的で、UIとコードが完全に分離していたりと開発しにくい面があります。Alessio Biancalanaさんは、GNOME向けのコンポーネント集であるlibadwaitaを使ったアプリケーションをReactのような宣言的なスタイルで、Rust言語で実装できるフレームワークRelm4を紹介しました発表資料講演動画⁠。実際のコードを表示しながら、コンポーネントの配置方法や、イベントハンドラーの実装方法がどのようにできるかの解説がありました。

GTKとRustそれぞれの良さ・悪さを紹介しつつ、それを踏まえてRelm4の実例を語るAlessioさん

高校生による発表

今回は高校生の発表者が2人もいました。中国から参加したRoxanne WuさんはBirth of a New Balance Cartというタイトルで、SUSEが行っている学生向けのAI活用教育プログラムを受講した体験談について発表しました。教育プログラムの中では、バランスを取りながら線の上を走行する二輪の車を制作したそうです。

教育プログラムを通じてOSSに初めて触れたというRoxanneさん

インドネシアから参加したFaris Ahza Bakhtiarさんは、Why Blender is Potential to Learn Nowadaysというタイトルで、3DモデリングソフトウェアのBlenderについて発表しました。英語での発表は初めてだったそうで、さらにモニターへの出力トラブルにも見舞われるものの、他のインドネシアからの参加者からのサポートも受けて、無事に発表を終わらせることができました。インドネシアではこのような発表も学校の単位として認められるそうで、学生がイベントに参加し、発表する光景がよく見られます。

初心者にとってもBlenderがおすすめであることを語ってくれたFarisさん

発表以外のブースなどの模様

会場は3つのトーク会場とは別に、受付のあるエントランスホールがあります。エントランスホールでは、スポンサーブース、コミュニティブースを配置し、各種サービスやコミュニティの紹介が行われました。

ここではエントランスやスポンサーブースの様子を写真とともにお伝えします。

受付に用意されたウェルカムボード(左)。エントランスホールではRaspberry Piを用いてメイントラックの様子をライブ配信していた(右)
SHIFTブースでは、興味のある技術を付箋に書いて貼るとノベルティがもらえる催しを実施
SUSEブースでは、SUSE Linux EnterpriseやRancherなどの製品の紹介が行われていた
さくらインターネットのブースでは、低価格でGPUが利用できる「高火力DOK」などの製品の紹介が行われていた
AlmaLinuxのブースでは、AlmaLinuxに関する最近の動向が紹介されていた
日本openSUSEユーザ会のブースでは、コミュニティー本の販売、ステッカーの配布などが行われていた
東海道らぐのブースでは普段の活動やその成果物の紹介が行われていた

さらにエントランスホールではコーヒーなどのフリードリンク、ティーブレークの時間帯にはお菓子も提供しており、イベント中の休憩・交流の場としても使われました。

無料で提供されたコーヒー(左)。ティーブレークはエントランスホールに集まり懇談(右)
発表者・スタッフに提供された本イベント限定のTシャツ

1日目はあいにくの雨でしたが、2日目は晴天に恵まれ、目の前にある東京タワーや富士山など、参加者に東京の景色を楽しんでもらえました。

会場は麻布台の上に建つビルのさらに32階とあって東京タワーが目の前に見えた
2日目は晴天に恵まれたため、遠くにある富士山をみんな撮影していた。特に夕方には太陽が富士山に沈む様子も見られることに

初日に行われた懇親会の様子

1日目の夜に全参加者の半数以上が集まる懇親会を行いました。スポンサー・コミュニティブースのあるエントランスホールに料理とお酒を持ち込み、夕食を取りつつ参加者同士で交流を深めました。

乾杯時の様子(左)。なぜかそれぞれのThinkPadを持ち寄ってその集合写真を撮っている

3日目に行われた現地ツアー

メインカンファレンスの翌日は、主に発表者のうち希望者を募って現地の観光に行くことが恒例になっています。ツアーは、現地の文化やものごとについて話すことが多く、発表者と開催地のメンバーとでコミュニケーションを取る良い機会となっています。

今回もイベントの翌日である11月4日(文化の日の振替休日)にツアーを開催しました。7年前に浅草やスカイツリー、秋葉原といった定番に行ってしまったため、今回は少し足を伸ばして鎌倉に向かいました。午前中に北鎌倉駅に集合し、まずは円覚寺へ。

円覚寺の山門の脇で集合写真

円覚寺の観光が終わったあとは、鎌倉駅に移動して小町通りで昼食をとります。さらに鶴岡八幡宮へお参りしたあと、博物館に立ち寄りました。海外からの参加者は、奉納された菰樽(酒樽)が気になったようです。

みんなして写真を撮りたがった結果、なし崩し的に菰樽の前で集合写真を撮ることに

最後は大仏のある高徳院へ。みんなで胎内めぐりもして、集合写真を取りました。

高徳院にて。各自の合流・解散タイミングの都合の結果、集合写真の度に人数が変わる

今後のopenSUSE.Asia Summitについて

次のopenSUSE.Asia Summitは8月にインドのデリー近郊のファリーダーバードで開催される予定です。今回の東京でも過去最大の10名がインドから参加しており、来年の開催に向けて良い流れとなりました。発表に興味のある方は、渡航費用および宿泊費の補助も行っていますので、ぜひ挑戦してみてください。

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