OSSデータベース取り取り時報

第114回オープンソースカンファレンス大阪報告と東京予告⁠MySQL 9.2.0イノベーション⁠リリース⁠PostgreSQL最新情報アラカルト

この連載はOSSコンソーシアム データベース部会のメンバーがオープンソースデータベースの毎月の出来事をお伝えしています。この連載は、今年2025年の夏に満10歳を迎えます。2025年もOSSデータベース取り取り時報をよろしくお願いいたします。

OSSデータベースを組み込んだプロダクトの事例〜なぜそれを選んだ?@OSC大阪

1月25日に大阪で開催されたオープンソースカンファレンス 2025 Osaka(OSC大阪)にて、OSSコンソーシアムではOSSオープンソースデータベースをテーマにしたセミナーを実施しました

前回の再掲ですが、その概要です。OSSのDBMSは、カスタムアプリ(企業の業務アプリなど)のミドルウェアとして採用されるだけでなく、他のOSSアプリケーションのコンポーネントとして使われるケースもあります。OSSアプリケーションにDBMSを組み込んだ事例を取り上げて、それを選択した理由やメリットなどについて、パネル討論風に登壇者と一緒に考えました。

オープンソースカンファレンス2025大阪でのセミナーの様子
オープンソースカンファレンス2025大阪でのセミナーの様子

今回はここで紹介された2つの事例での、DBMSやプラットフォームの選択に関する部分を中心にお知らせします。

複数のDBMSに対応したプリザンター

まず、インプリム内田さんによる、ノーコード開発ツールのプリザンターの概要とデモからスタートです。わずか数分でアプリ機能を開発するデモを見せられるのは、ノーコードツールが本領発揮した部分でした。

プリザンターでは最初のDBMS選択はSQL Serverでした。当初の稼働環境がWindowsサーバだったこともあり、Windowsを使っている顧客がサポートをちゃんと付けてくれそうなものとしてSQL Serverを選択されたとのこと。

その後にPostgreSQLとMySQLにも対応しましたが、複数種類のDBMSに対応する苦労はなかったのでしょうか。プリザンターの製品内部ではORマッパー的なDBにアクセスする層を集約して開発しているので、異種DBMSに対応する際には、その部分だけ見直しや拡張することで解決しているようです。元々DBMS固有の機能に依存する部分は少ないことが幸いしたという面もあったそうです。ただ、全文検索機能の部分については、現在でもやや苦労しているとのことでした。

MongoDBを採用したシラサギ

次は、ウェブチップス野原さんから、CMSとグループウェア機能を提供するシラサギについての紹介です。シラサギの稼働環境はLinux系OSと、Ruby、Ruby on Rails、そしてDBMSとしてMongoDBが使われています。

ここでやっぱり気になるのがMongoDBの採用理由です。実はシラサギの前にはMySQLを採用したCMSがありましたが、新しいシラサギでは前の製品と似たものになるのを避ける意味に加えて、新しい技術にも挑戦したいという開発メンバの希望も反映して、MongoDBを採用することになったそうです。

提供する機能がCMS中心だった当初には、DBMSに期待する機能は比較的シンプルなデータ投入と読み出しでDBMS自体に多様な機能を求めることはありませんでした。ただ、シラサギがグループウェア機能も持つようになってくると、機能豊富なDBMSが魅力的に見える面もあるようです。しかし、DBMSの移行には大きなパワーが必要で移行を決断するには至っていないとのことです。

開発当初にRuby on RailsとMongoDBを組み合わせた例はあったかとの質問がありました。野原さんの見解としては、おそらく無かっただろうとの回答です。開発スタート当時の技術メンバがしばらく籠もって製品開発をしたという逸話を紹介いただきました。

パネルディスカッション

OSSプロダクトの開発エンジニアの採用しやすさについての問い掛けがパネリストから出ました。プリザンターでは、DBMSスキル(しかも複数DBMS対応)よりも、プログラミング言語であるC#スキルを中心に求人しているとのこと。DBMSについては採用後にキャッチアップしてもらうことにしているようです。上述のようにDBへのアクセス部分を集約しているのもこのような背景があるのでしょう。

シラサギの場合、開発拠点である徳島ではRuby on RailsやMongoDBのスキルのある人材を探すのは難しいのが現実で、なにかの言語や案件で「ひととおりの知識と経験がある」ことを人材を探す際の基準にしているようです。魅力的なプロダクトの開発能力と、そのために採用するコンポーネントへの習熟は、今回紹介された2つの事例以外のケースでも共通の課題でしょう。

DBMSから少し視点を拡げて、DBMS以外のOSSをコンポーネントとして使うことについてはどうでしょうか。プリザンターでは、独自に開発している部分が多くあり、特にUIエンジンでは既存のフレームワークなどではなくて独自のものを作っているそうです。高速な画面描画を実現するための、サーバサイドレンダリングが行えるようにしているとのこと。

シラサギでは、全文検索機能の他に、グループウェアのカレンダー機能に他のOSSを活用しているそうです。ただ、他のOSSを採用した部分は、なかなか仕様を変えられなくなります。仕様の自由度と開発効率はトレードオフになるというのは、なるほどと思う点です。何か新たに実現したいことがある場合には、既存のOSSで使えるものがあるかを数日かけてを調べたり、組み込んで試してみるそうです。それで難しければ、気持ちを切り替えて新たに開発することにしているとのことでした。

今回のオープンソースカンファレンスはセミナーを含む全てが会場開催でしたので、オンライン配信はありませんでした。講演のスライド資料の支障のない部分については、OSSコンソーシアムのWebページで公開します。

OSSがビルディングブロックになってデジタル変革は進む(はず)@OSC東京春

2月のオープンソースカンファレンス 2025 Tokyo/Spring(OSC東京春)でも、OSSコンソーシアムが企画セミナーを実施します。2日間開催のOSC東京春の内、1日目の2月21日(金)の午後、会場は東京の駒澤大学です。

OSC大阪では、ソフトウェア開発のコンポーネントとしてのDBMSを中心にして考えました。OSC Tokyo/Springでは、もう少し視点を拡げてITシステム構築でのOSSの活用について考えます。OSSコンソーシアムの部会活動に参加するメンバの他、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)のOSS推進メンバにも加わっていただき、次のような話題について講演発表の後、全員でパネル討論を実施する予定で準備中です。

  • OSSとエコシステム
  • レガシー刷新とコンポーネント選択
  • OSS開発に他のOSSを活用
  • 長年愛されるOSSの秘訣
〔講演者⁠パネリスト〕

この企画セミナーでは、⁠OSSの」活性化とともに、⁠OSSによる」IT業界とデジタル社会の活性化にも視点を拡げられればと考えています。雲をつかむような話ではなく、前述のOSC大阪のようなリアリティのある発表とディスカッションの場になるようにしたいと思います。

[MySQL]2025年1月の主な出来事

9.x系のイノベーション・リリースであるMySQL 9.2.0が公開されました。またMySQL 8.4 LTSとMySQL 8.0の各マイナーバージョンおよび各クライアント・プログラムがリリースされました。

なお各クライアント・プログラムのバージョン9.2からは、サポート中のすべてのMySQL Serverのバージョンに接続可能になっており、クライアント・プログラムの8.4.3や8.0.44はリリースされていません。

MySQL 9.2.0イノベーション⁠リリースでの新機能や変更点

SUPER権限が必要な場面を減らすための改良が続けられており、MySQL 9.2.0では空間参照系(Spatial Reference System)の作成や変更、削除のための専用の権限であるCREATE_SPATIAL_REFERENCE_SYSTEMが追加されています。

またコミュニティ版を含め、OpenSSL 3.xの機能を活用した暗号化まわりやInnoDBの非同期I/O(AIO⁠⁠、InnoDBのスタートアップ時間、CPU数が128以上の環境での動作、Information_SchemaのPROCESSLISTテーブル、特定のSELECT文など、複数のパフォーマンスの改善が行われています。そしてMySQL 8.0.41では複数のクラッシュを引き起こすバグの修正も行われています。

MySQL Router 9.2では、InnoDB Clusterの構成やステータスを管理するメタデータのキャッシュを常に更新するための接続を、これまでデフォルトのTTLが0.5秒で頻繁に切断と接続を繰り返すことでMySQLサーバ側の負荷が増大していたところから、永続的な接続に変更してMySQLサーバの負荷軽減とリソース削減を実現しました。

MySQL Shellのアップグレード・チェッカー・ユーティリティの出力をログに書き出すことができるようになっています。新たにバイナリ・ログのみのダンプとロードが可能なユーティリティも加わっています。

MySQL 9.2 Enterprise Editionの機能強化

MySQL 9.2のEnterprise Editionバイナリでは、高可用性、可観測性(オブザーバビリティ)およびセキュリティに関する強化が行われています。特にグループ・レプリケーションに関しては、データ複製の遅延やリソースの枯渇への対策が数多く行われています。問題が発生したノードを自動的に除外し、また再参加させるアプリケーションへの影響を最小限に抑える仕組みが改良されています。

ストアド・プログラムをJavaScriptで開発できる仕組みがMySQL 9.0で加わりましたが、9.2ではJavaScriptライブラリを作成また利用できるようになりました。ライブラリの利用はストアド・プログラムの作成時に利用対象のライブラリを指定するか、プログラム内でimport()で指定できます。

[PostgreSQL]2025年1月の主な出来事

1月はPostgreSQL本体の新しいリリースはありませんでした。現時点の最新バージョンは、2024年11月にリリースされた17.2です。PostgreSQLエンタープライズ・コンソーシアム(PGECons)が2月に開催するセミナーの概要と、その他の情報をアラカルト的にお知らせします。

第31回PostgreSQLエンタープライズ⁠コンソーシアムセミナー

2月21日(金)には、PostgreSQLエンタープライズ・コンソーシアム(PGECons)のオンラインセミナーも開催されます。PGEConsでは例年、春~夏にPGEConsでの1年間の活動成果を報告するセミナーを、冬頃にはテーマを設定したり事例を取り上げた特別セミナーを開催しています。

今回は『ソフトウェア・ファースト~あらゆるビジネスを一変させる最強戦略~』の著者の及川卓也さんが登壇され、ソフトウェアファーストの視点から見た新たなデータ技術の潮流、それを活かすための戦略的アプローチについて講演されます。続く事例インタビューでは、金沢機工株式会社の吉田序彦さんに、商用データベースからPosgtgreSQLベースのEDBに移行されたお話をはじめとして、業務とシステムの歩み寄りといった観点まで、幅広くインタビュー形式で伺います。

PostgreSQL貢献者ページに日本人5人を含む24人が新たに加わる

PostgreSQL貢献者ページには、PostgreSQLプロジェクトに長期間にわたり多大な時間と労力を費やしてきた人々が掲載されていますが、新たに24人の方々が加わり、その中には次に挙げる日本の方たちも含まれていました。

  • 鳥越淳さん(NTTデータ)
  • 黒田隼人さん(富士通)
  • 喜田紘介さん
  • 曽根壮大さん
  • 高塚遥さん(SRA OSS)

この5人の皆さんはもちろん、新たに掲載された24人の皆さん、おめでとうございます。

Azure Cosmos DB for MongoDBのエンジンがPostgreSQLベースで開発されOSSで公開

マイクロソフトは1月23日、vCoreベースのAzure Cosmos DB for MongoDBを動かすエンジンとして、PostgreSQLを元に開発したものをオープンソースとして公開しました

このソフトウェアは「DocumentDB」という名称で公開されました。AWSの「Amazon DocumentDB」とは別物のため要注意でしょう。今回マイクロソフトから公開された方のDocumentDBは、ドキュメント操作をサポートするために連携して動作する2つのコンポーネントで構成されています。

  • pg_documentdb_core:PostgreSQLでのBSON(Binary JSON)データ型のサポートを最適化するPostgreSQLの拡張機能
  • pg_documentdb:CRUD操作、クエリ機能、インデックス管理などのAPI提供

2025年2月以降開催予定のセミナーやイベント⁠ユーザ会の活動

イベントごとに利便性のあるオンライン開催や、従来通りのオンサイト(会場)開催、またはハイブリットが混在するようになっています。興味を持たれて参加したいイベントの開催形態にご注意ください。

Oracle CloudWorld Tour Tokyo

日程 2025年2月13日(木)
場所 ザ・プリンス パークタワー東京
内容 Oracle CloudWorld Tourでは、AIを活用したビジネス価値の最大化方法、最新のクラウド技術、そして自動化による生産性・効率性の向上について学ぶことができます。Oracle Cloud AIサービスやインフラ、アプリケーション、データベース、開発者向けツールを駆使して、さまざまな業界での複雑なビジネス課題を解決しているエキスパートたちから、実践的な知識を直接学ぶことができます。HeatWaveのセッションではHeatWave MySQLを利用されているお客様の導入事例もご紹介予定です。

オープンソースカンファレンス 2025 Tokyo/Spring

日程 2025年2月21日(金)10:00~18:00(展示:11:00~17:30)
2月22日(土)10:00~17:30(展示:10:00~16:00)
場所 駒澤大学 駒沢キャンパス 種月館(3号館)(東京都世田谷区)
内容 東京地区では5年ぶりに会場にて金曜と土曜の2日間、セミナーと展示の両方のフルスペック開催になります。OSSコンソーシアムも協賛出展して企画セミナー「OSSがビルディングブロックになってデジタル変革は進む(はず⁠⁠」を、Part 1からPart3 の3コマ連続で、1日目の2月21日(金)の午後に開催します。その他のOSSデータベース関連の発表については、公開されたプログラム詳細をご参照ください。
主催 オープンソースカンファレンス実行委員会

第31回PostgreSQLエンタープライズ⁠コンソーシアムセミナー『ソフトウェアが拓くデータ活用の未来とオープンソース戦略』

日程 2025年2月21日(金)14:00~16:50
場所 オンライン開催(Zoomウェビナー)
内容 前半は『ソフトウェア・ファースト~あらゆるビジネスを一変させる最強戦略~』の著者の及川卓也氏が登壇されます。後半の事例インタビューでは、金沢機工株式会社の吉田序彦氏に商用データベースからPosgtgreSQLベースのEDBに移行された事例をお話しいただきます。
主催 PostgreSQLエンタープライズ・コンソーシアム

Oracle Cloudウェビナー - MySQLをベクトル⁠ストアとして活用し⁠セマンティック検索をする方法

日程 2025年3月5日(木)15:00~16:00
場所 オンラインセミナー(Zoom)
内容 MySQL 9.0ではVECTORデータ型が追加されたため、ベクトル・データを保持できます。また、オラクルが提供しているMySQLのマネージド・サービスであるHeatWave MySQLでは、テキスト・データに対してエンべディングを生成するルーチンや、ベクトル・データの距離を求める関数が使えるため、MySQL内のテキスト・データに対して簡単にセマンティック検索(データの意味に基づいた検索)を実現できます。本セッションではこれらの新機能について解説し、MySQL内のテキスト・データに対してセマンティック検索を実現する方法について解説します。申し込みページは近日公開予定です。
主催 日本オラクル セミナー事務局

おすすめ記事

記事・ニュース一覧